第1章

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食パンは三枚目に手が伸ばされた。まあ成人男性だし、まだいいか。 「他にも何かあるんですか?生理現象なら、眠くなるとか」 「眠い。けど、起きたばかりだからまだ我慢できる」 彼曰く、生理現象が増幅することのメリットは、相手を簡単に征服できることらしい。眠らせたり弱らせて命を奪いやすくするので、普通は意図的にかける術であるらしかった。 「ふうん。心当たりはないですねー、ほんと。存在って言われても、出生の方にも特に」 ?まかい、まぞくなんて言葉はフィクションの中でしか聞いたことがなかった。だからこそいっそう、俺にこの人のイカレポンチさは際立って感じられるのだから。 「そんなはずはない。何かあるはずだ、何か」 食パンは四枚めだ。五枚切りなので、もうすぐ一斤である。 「さすがに食べすぎなんじゃ?お腹壊しませんか」 「ん、もう少し、」 ガツガツと素パンを貪る姿を見る限り、こちらも並みの空腹ではなさそうだった。俺のせいでこんな風になっているのかと思うと、少しは同情心も湧いてくるというものだ。少しは。多少、なんとかしてあげられたらいいんだけど。ああ、そういえば。 「そうだ、せめて尿意の方、何とかなるようにオムツしときましょう」 パンツタイプを購入してきた。値は張ったがお兄さんの財布であるため以下省略。これならば自分で履けるし抵抗も薄いだろうと思ったのだが、お兄さんはひくりと顔を歪ませた。 「……本当にするのか」 「そうですね。もう一回ルールが破られてるんで、信用はないですね」 「うう……」 俺の手からゆっくりと紙オムツを一枚受け取ったお兄さんは、しぶしぶトイレに向かった。そうだ、服を一応着替えてもらわないといけない。流石に私服はサイズの合いそうなものがないので、今日は昨日洗って乾かしたパンクロッカー風のあの服を着てもらって、布団を買う際にもう数着まともな服は買ってもらおうか。しばらくして、お兄さんは顔を引きつらせながら出てきたので、着替えをするように指示した。俺も着替えないといけない。急いで着慣れたスウェットから普通の衣類に着替えた。 「さあ、じゃあ出かけますか」
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