第1章

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同居二日目であることもあり、俺は身を引いて後ろを向いた。まだ早い。見たい気持ちはあったが、理性を優先させた。お兄さんは何も言わなかったが、背後から水音がし始めた。初めは音を気にしてか、しゅ、しゅる、ばちゃ、と途切れがちな水音だったものが、次第に余裕をなくして、多量の水がぼちゃぼちゃとバケツを打つ音に変わっていった。どれだけ恥ずかしいだろう、そう思うだけで鼻がツンと熱くなり、くしゃみが出そうになるような、感動に近い興奮を覚える。やがて音はしなくなった。俺が振り向くと、お兄さんは性器を露出したままであったため、慌てて手で隠していた。サイズについて思う所はあったけれどここでは特に触れない。 「……もう嫌だ……」 がっくり肩を落として顔を覆う姿は、さっきまでのしょげていた様子よりもさらに随分と情けなく、そそるものがあった。 「そんなこと言ってないで、タオル持ってきますから巻いて、さっさと風呂場へ行ってくださいねー。今日は布団買いに行かないといけないんだから」 それだけ言うと、俺はバケツの中身を捨てにトイレに向かった。なんだ、魔界の人間という割に、見た所体液に違いもないじゃないか。そこは別に作り込んでいないんだな。まあそんな余裕も無かったかな。色の濃いそれを捨て、タオルを取ってきた俺はお兄さんに手渡す。 「じゃ、ちょっと大人用オムツ買ってきますから」 極力爽やかに言い捨てると、まごまごとタオルで足を拭っていたお兄さんは、また顔を真っ赤にした。 「……っ」 俺は放置したまま家を出る。同居二日目で空いた家を任せられるなんて、俺もどうかしたのかもしれない。
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