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三人とも、なんとなく見覚えがあるような気がする。ないような気もする。クラスメイトだろうか。まだ高校に入学して時間が経っておらず、クラス全員の顔と名前を覚えていないので、確信が持てなかった。
何しに来たんだろう。授業のプリントでも届けに来てくれたのだろうか。クラスの女子がわざわざ家に来てくれることなんて初めてだったので、さっきとは別の意味でドキドキした。
ドキドキはしたが、ドアは開けられない。
彼女らに悪意はなくとも、ドアを開けた瞬間、その辺りに隠れていたハンマー女が飛び出してきてそのまま……なんてこともあり得るのだ。その可能性がある限り、この扉を開けるわけにはいかない。
「鯨井(くじらい)桜人(さくと)さん、中にいるのはわかっています。出てきてください」
「そうだぞー出てこーい」
外から声をかけられた。
先に言ったのがヘアピンの子で、後からのがショートカットの子だ。
二人の口ぶりはなんだか刑事が立てこもり犯に呼びかけるようで、別に悪いことをしているわけでもないのに悪いことをしているような気になってくる。
「鯨井桜人さん、出てきてください。話があります」
「出てこいこらー金返せー」借りた覚えがない。
「ふ、二人とも声大きいよ……」
眼鏡の子が必死で二人を宥めようとする。頑張れ眼鏡の人。
そんな僕の声なき応援もむなしく、ヘアピンとショートカットはチャイムを鳴らしながら僕の名前を大声で連呼し続け、眼鏡の子は「ああ……」と元気を失くしていった。無念。
「あの……すみません、何のご用でしょうか」
僕はドアを開けないまま、弱々しく尋ねた。
ショートカットの子が「ひゃっ、ドアが喋った!」と叫んだ。僕ん家の玄関先の空気がえらいことになった。
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