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三人分のコーヒーを持ってリビングに戻ると、三者三様の待機模様だった。
僕はとりあえず見事な正座を披露している立花さんの前にコーヒーを置き、部屋を漁りまくっている遠藤さんを座らせ、それから何やら頻りにソワソワしている舞初さんの方を向いた。
「えっと、どうしたんですか」
「あ、あの……」
「はい」
舞初さんはそのまま燃え上がりそうなほど顔を真っ赤にして「……お手洗い何処ですか」と呟いた。あー。
「奥行って右です」
「すみませんお借りしますすみません」
舞初さんはすみませんでサンドイッチを作るやいなや、僕の返事を待たずしてリビングを出て行った。よっぽど我慢していたらしい。どうか間に合いますように。
「ねーねー牛乳どこおー」
不意にキッチンの方から声がしたので嫌な予感と共に走って行くと、遠藤さんが勝手に冷蔵庫を物色していた。
「何やってんすか……」
「だってあたしコーヒーは牛乳ないと無理だし」
「だったら言ってくれれば出しますよ」
「あ、魚肉ソーセージ発見。食べていい?」
僕はそこにある大根で彼女の後頭部を思い切り打ち抜きたいと、爽やかに思った。
騒ぐ遠藤さんを無理矢理リビングに連れ戻すと、ちょうど舞初さんが晴れやかな表情でお花摘みから帰ってきたところだった。間に合ったらしい。
そんな中、立花さんは姿勢を少しも崩すことなく正座を続けていた。これは本格的に立花さんサイボーグ説を唱える必要がありそうだった。
「ご家族の姿が見えませんが」
「ああ、両親は仕事の都合でしばらく海外に」立花さんの問いに答えると、魚肉ソーセージを貪っていた遠藤さんがたちまち目を輝かせた。
「え、じゃあ鯨井君こんな広い家に一人暮らし? いいなあー憧れちゃう。鯨井君の家って結構ブルジョワだよね、広いし冷蔵庫でっかいし。ラノベの主人公かよ。よし、ちょっと婚姻届もらってくるから結婚しようぜ」
「はいはい」
僕が華麗に受け流すと、後ろで舞初さんが最高級の苦笑いをなさっていた。
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