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空気が重くなったのを感じてか、遠藤さんと舞初さんが何か言おうと口をパクパクさせている。
「先生に言われて、義務感に駆られ、それで仕方なく来ていただいたのはわかりました……でも残念ですが、学校に行くという約束はできません」
思った以上に声が震えていて、僕は恥ずかしくなった。
「それは何故ですか」
「…………」
返事を濁す僕に業を煮やしたのか、立花さんが息を短く吸うのがわかった。
「鯨井さん、私にはあなたが学校に来ない理由がわかりません」
「ゆ、夕子ちゃん……」舞初さんがやんわりと制止するが、彼女の口は止まらなかった。
「例えば、それがもし『ただ何となく行きたくない』という理由だけなら、それは甘えです」
鳩尾の辺りがぐっと熱くなる。気持ち悪い。帰りたい。ああ、ここが家だった。
「誰にだって嫌なものはあります。でもそれを嫌だからといって避けるのは単なる我儘です。そんな堕落的な考えは身を滅ぼします。反省してください。ただ」
「出てけッ!」
僕は立花さんの言葉を叩き潰すように、大声で言った。遠藤さんたちが驚いて目を見開いている。気が付けばもの凄い力でズボンを握りしめていた。
「あ……すみません、でもほんとに帰ってください。気分が、悪いんです」
「わかりました。二人とも、鯨井さんは体調が悪いそうなので今日のところはお暇しましょう」
立花さんは顔色一つ変えることなく、立ち上がった。
「もし明日、体調が良ければ学校へ来てください。姿が見えなかったら、また放課後伺います」
「……もう来ないでください」
「いえ、まだ話は終わってませんので」
立花さんはそれだけ言うと「お邪魔しました」とリビングを出て行った。残りの二人は少し迷っていたが、黙ってそのまま彼女の背中を追って行った。
手を付けられずに冷めてしまったコーヒーを眺めながら、僕は「何も知らないくせに」と呟いた。その言葉がひどく負け惜しみじみていて、僕は力なく笑った。
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