第1話 星に願いを。

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 順を追って説明する。  石段を半分ほど上がったとき、神社の方から何やら音がした。金属で金属を叩き付けるような、甲高い音だった。  さらに上がって行くと、その音に混じって何者かの声がした。  耳を澄ましてよく聞いてみると、どうやら女の人の笑い声であるらしかった。携帯に目をやると、時刻は午前二時を回ったところだった。  先程までのファンタジック且つメルヘンティックな気分が、忘却の彼方へとぶっ飛んでいくのがわかった。このような時間に女性が一人で神社にて不可解な音を鳴らしつつくすくす笑っているなど、どこをどう考えたってまともじゃない。  脳みその端っこで、警告ランプが赤く光った。  これ以上近付くな。直ちに回れ右。  だが、同時に胸の奥底で生じた感情があった。それは、もう数段いけばその姿を現すであろう女の正体をこの目で確認したい、こんな夜分遅く女が何をしているのか知りたい、あの音の正体を確かめたいという、端的に言えば好奇心なのであった。  気付けば異様に喉が渇いていた。少しだけお茶を流し込む。  行ってみようか。  またもやそんな考えに至った。  その時の僕には妙に自信があった。相手もこんな時間に人が通りかかるなんて考えてもみないだろう。ちらっとだけ見てササッと退散すれば大丈夫だ。仮に見つかったとしても、相手は女だし、余裕で逃げ切れるさ。そんな原因不明の自信が、胸の奥から湧き水のごとく溢れだしていた。  今にして思えば、これが死亡フラグだったのだ。  もしこれがホラー小説なら、読んだ僕は「あーあ。何でここで見に行っちゃうかなあ。主人公馬鹿過ぎ」なんて言いながら先の読める展開に本を投げ捨ててしまうかもしれない。しかし、いざ自分が主人公の立場になるとその気持ちがよくわかった。  意を決して、僕は再び石段を上がり始めた。なるだけ足音をたてないように、静かに、慎重に。周りの景色に自分を溶け込ませ、静寂を装いながら、ゆっくり、ゆっくり。  少しずつ、音と笑い声が近づいてくる。もう少しだ。  ついに石段が終わった。僕は急いで朱色の鳥居に身を隠し、そろりと顔を出した。  絶え間なく鳴り響く音を、目で辿る。  真っ白な女が、大きな木の前に立っていた。
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