2人が本棚に入れています
本棚に追加
「ひひひひ……ひひ……」
近くに来てわかったことだが、女の声は予想していたよりもかなり若かった。
顔は長い髪に隠れてよく見えないが、もしかしたら年齢は僕とあまり変わらないのかもしれない。
女が一心不乱に金槌を振るう度に、御神木が大きく揺れる。
丑の刻参りなんて本でしか読んだことがない。
まさか本当にそれを実行しようなどという人間がいようとは思わなかった。
視線の先の彼女は誰かを憎み、呪い、その人物を本気で死に至らしめようとしている。
凄まじい悪意。強烈な憎悪。
日々平々凡々と暮らしてきた僕にはどうも刺激が強すぎる。そういうのは物語の中だから楽しめるものなのだ。
ただ、本から得た自分の知識を参考に見てみると、妙な点も多くあるように感じた。
例えば女の格好は白い服ではあるものの、やたらめったらフリルの付いたワンピースだし、釘を打ち付けているのも藁人形ではなく可愛らしいテディイベア(それはそれで薄気味悪いが)だ。
あのでか過ぎる金槌にしたってそうだ。
他にも所々で僕の知っている丑の刻参りとは違っている。まぁ、あの女が正式な方法など調べもせず、自分の浅い知識だけで大した準備もないままにあれを実行してしまっているのだとしたら納得がいく。
要するに無知なのだ。
それで相手を殺せるつもりでいるのだとしたら、非常に残念なお方である。勘違いで腹に釘をぶち込まれているクマが不憫でならない。
最初のコメントを投稿しよう!