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正子
母ササの神経質そうな声に私は足を止めた。ビーチホテルの先の岸壁まで行こうかとおもっていたが。
「空襲警報が出とるとじゃけん遠くに行かんとよ、防空壕の上で遊びなさい」
私は防空壕の上から、道一つ先に流れる幅が大きい川面を呆然と眺めていた。海が近い下流だった。
ボラが水面を何匹も飛び跳ねていた。石でも投げたいなあと思った。その時だった。どこまでも青く空は宇宙まで延びたように。と、その時、
「ピカッ!」と閃光が走った。青空が金色かまっ白になんとも例えようがない色に染められていった。続いて。
「ドンドンドン」轟音が空中に響き渡った。きのこ雲のような灰色が空を覆った。こんな経験は初めてのことだった。
玄関のドアのガラスが飛び散った.私はササと長姉ユキ次姉リノを大声で呼んだ。
「母ちゃん、お姉ちゃん、早く防空壕へ来て!」と。ユキ姉は私の八歳下の弟祐孝をだいて防空壕になだれ込むように入ってきた。三姉ルリは熟睡してたらしく、目をこすりながら遅れて入ってきた。
父多賀がいつもと違い慌てふためいて、防空壕に飛び込むように入ってきた。防空頭巾を脱いだり被ったりしていつも落ち着いている父とは違っていた。
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