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猫はツンと鼻先と尻尾を伸ばして、さもなにも起こってないかの様に振る舞っているが、その動きは何処かぎこちなく痛々しい。
日を追うごとに、衰弱していっている。
俺はその事にすら気付いて無いふりを貫き通し、優しくつやの無くなった毛皮を撫であげた後、その動かなくなってきている前足を無理矢理掴み再び遊びを始める。
窓は、常に開けっぱなしだ。
猫は逃げようと思えばいつでも逃げられる。
そう分かってて故意に窓を開けているのに、今まで一度として猫は逃げる素振りすら見せた事はない。
ただ俺に寄り添ったまま、静かに壊れてきている。
そんな猫が愛おしくて、俺はますますこの「遊び」に熱中する。やめられなくなる。
猫にとっては最低の悪循環。
多分これは猫が原型が無くなるくらいまで壊れない限り終わらない。
「……ちゃんっ、亮ちゃんっ!」
自分を呼ぶ声に亮一はハッと我に返った。
視線の先では、眉にくっきりと皺を寄せた可奈が、黒目がちの大きな目を吊り上げて亮一を睨んでいた。
(……あぁ、そういや今可奈のお喋りに付き合ってる最中だったな)
別の事に気を取られたせいで八割方聞いていなかった。確か、映画がどうのこうの言ってた気がするが。
「……亮ちゃん、可奈の話聞いて無かったでしょ」
「悪ぃ。考え事してた」
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