第六章 彼との遊戯

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 始発の電車に乗って家に帰ると、部屋はまだ暗かった。  廊下の電気はつけずに、早朝の薄暗い状態のままリビングへと足を進める。  リビングの電気をつけて、大きく息を吐いてソファに身を投げ出そうとした瞬間、強く背中を押された。 「……っ」  したたか鼻を打ち付け悶絶する亮一の上に、亮一を突き飛ばした犯人は当然のように覆いかぶさってきた。 「――可奈と別れたら、今度はすぐにまた別の女か? 亮。……俺はお前に、朝帰りなんか許可した覚えはないんだがな」  冷淡を装っているが、どこか余裕がないその声に、思わず笑みが漏れた。 「なんで、てめぇに許可をもらう必要があるんだ? アキ」  だけど、まだ足りない。  その瞳には、まだ、前のような感情が滲んでいない。  もっともっと、彰広を傷つけなければ。 「……お前、まだ自分の立場を理解していないんだな」 「立場? 言うほどのことかよ。ようは言うこと聞かないと写真ばらまくって、だけだろ」  亮一はくつくつと喉を鳴らして笑いながら、彰広を挑発する。 「なんかもう、俺最近、店がどうなろうが、どうでもよくなってきたんだ。……お前がいくらおどそうが、好きにさせてもらうことにする」  その言葉は、嘘じゃなかった。  可奈と別れてから、千春の親身な忠告を拒絶してから、カズキを利用してから。  どんどんと自分の「大切」だったものが、色あせていくのを亮一は感じていた。  自分の中の「人間らしい」部分が、削り落ちて行っているのかもしれない。  そして、その感情は、今彰広を目の前にしたことで、決定的になっていた。 「……今日寝てきた女と、付き合うっていうことか?」 「女じゃねぇよ、馬鹿」  色が、欲しい。  夢で見た、あの赤が。 「カズキだよ。……カズキに抱かれてきたんだ」  愛しい黒猫の、狂気が欲しい。  今はただ、それしか考えられない。 (アキ……壊れろ。壊れて俺に、その感情を晒してみせろよ)
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