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「たーくと。今日は私、2限目からだから、そろそろ行くけど、拓斗はどうする?」  シャワーを浴びて出てくると、既に身支度を整えた律子が、朝食の準備をしていた。  ボクサーパンツだけを履き、タオルを肩にかけたままの格好でリビングのソファに座ると、「ちょっと。ちゃんと服を着てよね。髪も乾かさないで、風邪ひくわよ?」と、小言を言う彼女に、「お前は俺のカーチャンかよ」と言って鼻で笑うと、ぷくっと頬を膨らませる。  外では見た目も中身も完璧だと思われている彼女が、拗ねたり、怒ったりと、素の姿を見せてくれるのは俺だけの特権。  こんなことで、世間の野郎どもに対し、少しだけ優越感を持っているだなんて、我ながらちっちぇ男になったもんだと苦笑した。 「あー……そうそう。俺、今日は午後からだけど、大学まで送って行ってやろうか?」 「え? いいの? 面倒くさくない?」  俺の提案に、キッチンから弾んだ声が返ってきた。 「面倒臭かったら、自分からわざわざ言わねぇよ」  素直に、「俺が送っていきたいだけ」だなんて言えるわけがないので、つい、ぶっきらぼうな言い方をしてしまうが、そんな俺の天邪鬼な部分をよく知る彼女は、クスクス笑っている。
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