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 実は、あんな目に遭っておきながら、俺は自分の運命を180度変えてしまったバイクに乗っている。  車の免許も高校卒業と同時に取得しているが、都内で駐車場を借りるほどの金銭的余裕はない。  公共機関が発達しているので、車がなくても生活に支障はないのだが、元々住んでいた地域は、電車やバス等は整備されていても、基本、大人は自家用車、学生は自転車で移動することが多い。  通勤・通学ラッシュに遭遇したことのない俺にとって、都内の電車は、すし詰め状態でなくとも、人酔いするほどで、自分がこんなにも人混みが苦手だとは、思いもよらなかった。  そこで、仕方なくバイクの免許を取得し、移動の足に使っているのである。  人混みが苦手なら、わざわざ東京の大学なんかに進学しなけりゃいいのにと思われるかもしれないが、事故で右手、左足に大怪我を負った俺は、地元の病院ではそのどちらもが再起不能と医者から匙を投げられていた。  そんな俺の治療を買って出てくれたのが、先進医療を研究している東京の某医療センターだった。  幾度もの手術を重ね、世界でも数例しか行われていない技術によって、ようやく人並みの生活が出来るようになったものの、治療やリハビリという名のこまめなメンテナンスのために、新幹線とJRを乗り継いで何度も医療センターに通わなくてはならなかった。
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