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 特殊な治療を受けた俺は、研究対象者ということもあって、治療費の殆どを免除されたものの、副作用や拒否反応が無いか定期的にチェックするだけでなく、腕や足をどれだけ使いこなせているかなども経過観察する必要性があるらしく、これからも数カ月に一度は数日を要す検査入院を強いられた。  それならいっそ、少しでもおかしな症状が出れば直ぐに診て貰える場所に引っ越した方がいいという親からの勧めもあって、都内の大学に進学を決めたのだ。  住み慣れた街から離れるのは少々淋しい気もしたが、あれ以来、仲間だったあいつらの優しさや友情を素直に受け入れられず、ぎくしゃくした関係になってしまったし、それならいっそ、自分のことを全く知らない人間が集まる場所に『逃げたかった』というのが本音のところ。  大学のスポーツ推薦の話は当然なくなり、輝く未来を失った俺は、この悔しさと、自分の夢を誰かに託したくて、スポーツ理学療法士への道を選んだ。  スポーツ馬鹿だった俺は、がむしゃらに勉強することで、周りの雑音から耳を塞ぎ、同情の眼差しから目を背けることが出来――そして、五体満足で青春を謳歌する元チームメンバー達に対する醜い嫉妬心が表に出てこないよう蓋をすることが出来た。  その甲斐あって、見事、第一希望の大学に合格し、都内で一人暮らしを始めたわけなのだが……まさか、律子が学部は違えど、自分と同じ大学を志望していたどころか、親同士の親交も深いお陰で、勝手に同じアパートのお隣さんに仕組まれていた時には、驚くよりも呆れてしまった。  それでこうやって、彼女と深い仲になれたのだから、今ではお袋たちに感謝しかない。
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