ＺＩＰＰＥＲ【ｅｐｉｓｏｄｅ ０】

Ⅱ

　ここに来た当時のことを思い出し、律子にバレないよう小さな溜息を吐き出すと、俺はサイドテーブルに置いてあるＴＶのリモコンを取り、電源をつけた。

　朝の番組なんて、どこも同じような内容ばかり。

　芸能人のゴシップや、流行りのファッションにグルメ情報。

　別に見たい番組があるわけではないが、朝食が出来るまでの暇つぶしがてら、ボケッと眺めていると、画面がニュースへと切り替わった。

　九州地方を襲った集中豪雨での痛々しい被害状況が伝えられる。

　次に、神奈川県川崎市のアパートでの火災や、千葉県での小学生によるリンチ殺人事件等、痛ましい事件が続く。

「自然も社会も狂ってんな……」

　息を吐き出すようにポツリと口から零れ落ちた言葉に深い意味はない。

　その証拠に新たなニュースが流れると同時に意識はそちらに流れていく。

　ここ最近、都内で連続して発見されている奇妙な遺体が、とうとう神奈川県で　１０体目が確認されたとの報道。

　別に、その内容に興味をそそられているわけではなく、わざわざ強張った声を出し、人々に恐怖の種を植え付けようと、わざとらしく緊張した表情を作っているところが、かえって滑稽だ。