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“こいつだって、本気で悲しんでいるわけでも、犯人に対する憤りを感じているわけでもない。ただ、原稿を読んでいるだけ。所詮、事件なんて当事者以外、みんな他人事だ”  こんな風に冷めた考え方をしてしまうのは、俺の性格が歪んでいるからだろうか?  ピンと背筋を伸ばしてニュースを読む、真面目を絵に描いたような男を、画面越しに冷めた目で見つめた。 【19日午前5時30分ごろ、神奈川横浜市南区にあるマンションの8階エレベーター前で、誰かが倒れていると、住民からの通報がありました。現場に駆け付けた警察官が確認したところ、男性の遺体だと判明。背中に大きな切り傷と、傷口に沿ってファスナーらしきものがつけられているところから、殺人事件・遺体遺棄事件と断定し、神奈川県警南警察署に捜査本部を設置したと発表がありました。都内でも似たような事件が相次いでいることから、犯人は、同一人物か、もしくは模倣犯の可能性が高いと判断し、警視庁は今後、神奈川県警と協力し、合同捜査に――――】 「また《ジッパー》?」  ニュースが聞こえていたのか、律子が不安げな声を上げた。 「ああ。そうみたいだな」  彼女が言った《ジッパー》とは、今、アナウンサーが報道している事件のこと。
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