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迫りくる轟音。
猛スピードで走って来たバイク。
ボールを捕まえ、道のど真ん中で立ち竦む子供。
布を切り裂くような悲鳴が響く。
『やめろっ! 動くなっ! お前は漫画のヒーローでもスーパーマンでもない、ただの人間だっ。後悔するぞ!』
結末が分かっていても、張り裂けそうなほどの大声を上げずにはいられない。
けれど、彼には――過去の俺には当然聞こえる筈はない。
あれは確かに無意識に体が動いたんだ。
決して、子供を守りたいと思ったわけでも、妙な正義感が働いたからでもない。
条件反射のように、後先考えずに、俺は子供に向かって駆け出した。
バイクはもう目前。
抱きかかえるのは間に合わないと判断し、大地を蹴り、野球でいうスライディングのような格好で、両手を突き出して飛ぶと、思いっきり子供を突き飛ばした。
劈くようなブレーキ音。
激しい衝突音と、大きな叫び声。
吹っ飛ばされ、ぐしゃりと肩から地面に叩きつけられた俺の体に、倒れたと同時に乗り主を失った厳つい金属のボディが、コンクリートの上を滑るようにして襲い掛かる。
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