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 全身にぐっしょりと嫌な汗をかいている俺は、律子の口から吐き出されるであろう言葉が何なのか分かっている。  ただでさえ目覚めが悪いのに、同じ内容を耳にしたくない俺は、拒絶の意味を込めて彼女の細い手首を掴み、ゆっくりと引き剥がした。 「汗でベトベト……気持ちわりぃからシャワー浴びてくる」  あの夢を見た後は、自分でもコントロールが出来ないほどの苛立ちが沸き起こる。  彼女に当たるつもりなんかこれっぽっちもなかったのに、思いがけず低い声が出てしまった俺は、汗を流すだけじゃなく、冷水を浴びて、頭でも冷やそうとベッドからのそりと起き上がった。 「拓斗、ごめん」  触れられたくない部分を無遠慮につついてしまったせいで、俺の機嫌が悪くなったのだと思った律子は、落ち込んだような声を出した。  振り返ると、生まれたままの姿でシーツに包まった彼女が、一糸まとわぬ俺の背中を見つめていた。  露わになっている肩や首筋に咲く赤い花が、昨夜の熱く激しく求め合った情交を思い出させる。
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