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……だって、私はその野村寿蔵(のむら としぞう)君が好きだったから……。
……その、なんだか年寄り臭い名前も気にはならないくらい……。
……その、ちょっと変な髪型も許せちゃうくらい……。
だから、こんな所を見られたくは無かった。だって、これじゃまるで私がイジメられてるみたいな状況じゃない?
それで、なんとか誤魔化そうと頭をフル回転させようとしたのだけれど……。
「あ、あの。えーと……その……」
当然のように私の頭は機能停止したままで、そんな言葉(?)しか、口から出てこなかった。
というかそもそも、それを誤魔化せる話術があったら、こんな状況にはなってはいない。
「その様子じゃ、掃除当番を押し付けられたって感じだね?」
そう野村君は言った。うーん、この人は察しが良すぎるのだ。
「まあ、俺も暇だし手伝うよ」
そして、気遣いのできる人だ。
「……あ。い、いえ。その……あの……」
と私が口ごもっている間に、野村君はまるでそれが自分の本来の仕事だったかのように、さっさと机を運び始めていた。
野村君は行動の人なのだ……。
思いがけず野村君と二人きりになった私は、掃除当番を押し付けたクラスメート達に、ちょっとは感謝してもいいかも……なんて思ってしまった。
まあ、私が口下手じゃなくったって、その感謝の言葉をあの人達に口にするなんてことは絶対に無いのだけれど……。
「なんか最近、住谷さん色々と面倒事を押し付けられてるみたいだね?」
掃除の最中の何気ない会話で、野村君はずばりと言った。
「……う、うん。そうなのかな? 私は別に気にしてないけど……」
私はさりげなく、健気な少女を演じてみたのだけれど、察しの良い筈の野村君はそれをあっさりとスルーしてさらに訊ねた。
「やっぱ、中居が学校に来なくなってから?」
「……う、うん……」
中居真由(なかい まゆ)。
私の唯一の親友……というか友達と言えるのは、この学校には彼女だけなのだけれど。
真由ちゃんは私とは正反対で、明るく社交的。でも言いたいことはちゃんと言う。そんな、私の理想像の塊みたいな行動的な女の子だった。
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