「ヒトリニシテ」

3/26
前へ
/26ページ
次へ
 掃除を終えて、午後の授業が終わってから、弥子は児童会室に来ていた。 「三十分で探し出さないと!」  児童会室に所狭しと置いてある棚をひっくり返す勢いで、弥子は奔走していた。 「児童会室に資料あるって、この量どうやって探せば……えっと…終業式だから…夏休み関連か……季節行事か……」  弥子は探し回るが、ふと時計を見ると三十分経っていた。 「ああ! 明日朝来て探そう!」  児童会室から飛び出して、そのまま階段を駆け下りる。靴箱でこけそうになりながら靴を履き替えて、家まで急いで帰った。 「た、ただいま!」 「遅い! 塾の時間ギリギリよ!」 「ごめんなさい! 児童会の仕事が!」 「お母さんは児童会も塾もきちんと両立してたわよ! 早く支度しなさい!!」  弥子は怒鳴り散らされながら自分の部屋に入り、ランドセルを置いて、塾の荷物を確認した。  そして、すぐに階段を駆け下りて、玄関に向かう。そこにはすでに、車のキーを手で弄びながら立っている母親。 「行くわよ。忘れ物ないわね」  車に乗り込んで、隣町の大きなビルに入る。 「ああ、武門さん!」  入ってすぐにひょろい男性が話しかけてきた。 「先生。本日もよろしくお願いします」  母親は丁寧に挨拶をするが、 「少しお時間いいですか? 五分ほどです」  塾教師にそういわれて、奥の応接室に消えていった。 「………」  それを見ていた弥子は顔から血の気が引いていた。 「……この前のテストだ……あまりよくないし……」  塾の教室に入って、一人席に着く弥子。必要なものを机に出しても落ち着かない。 「……今日は帰ったら、宿題して、表紙描いて…朝は早めに行って探さないとだから、いつもより早く起きて…」 『言いたいことははっきり言わないと』  そこで、昼に未来に言われたことを思い出した。 「…はっきり言ったところでさ…それが通るとも思えないんだよ」  弥子のつぶやきはため息とともに消えた。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加