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卒業認定試験場と言えば仰々しいが、見た目はただのプレハブ校舎のようなもので、質素だった。
出迎えに、二人の女性がいる。
バスを降りてオコノセさんと、彼女たちの前に並び立つ。
「どうも、御子野瀬です」
面倒くさそうに頭を下げる御子野瀬さんにならって、
「長嶺零斗です」
「この度はどうも、ひとつよろしく」
御子野瀬さんはシャイなのかどうか、僕に向けるような物腰やわらかな感じではない。
「ご足労いただいて」懇切丁寧にお辞儀を返したのは、まず、向かって左の五十絡みの女性だ。「ゲットー女学院理事長の小路里佳子と申します。こちらが」
と言って小路さんが右を示すと、そちらが、
「彼女らの担任の又野です」
と名乗る。
又野さんは二十代後半と思しき、まだ存分にみずみずしさを持った、綺麗な人だった。
ぺこりと会釈すると、微笑まれる。
四人で並んで卒業認定試験場へ踏み入る。小路さんが歩きながら説明をくれるところによると、一階が教室六部屋、二階が宿泊用で十五部屋あると言う。
部屋数は足りるが、彼女たちふたりは都度帰宅すると言っている。家庭がある身なので、と断りが入った。御子野瀬さんは興味無さそうに相槌を打っている。
さて、と小路さんが言い、一階突き当たりのひとつの教室の前で止まる。
「ここに、長嶺さんが監督をすることになる、試験を控えた十人の生徒がおります」
「うわあ、緊張します」思った感想をそのまま口に出す。「女の子……」
小路さんと又野さんは顔を見合わせ、微笑んだ。
「安心してね、長嶺くん。みんな、いい子だから」
「いい子……、うおお、いい子ー」呪文による暗示。「はい、大丈夫です」
「やっぱり君も男だな」御子野瀬さんも笑う。「緊張、するんじゃないか」
「しますよそりゃ! バスとは違って、扉一枚向こうにはおんなにょこですよ!」噛んだ。「おんにょにょこ……」
「言っていても仕方ない、入ろうか」
そうして御子野瀬さんが扉に手を掛けた。
御子野瀬さん、小路さん、又野さん、僕の順番で教室に入る。
お、おにょにょにょこ……。
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