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「ああいうのいいよな~」
休憩室の一番奥にあるテレビを見て、作業着姿の内藤は言った、僕もつられてテレビに視線を向けると、画面上では黒ずくめの男が二人、一人はスーツケースを持っている。
「このスーツケースをもって、一番街のBARメリッサへ行き、入り口側から三番目のカウンターに座って、レッドアイを注文しろ、それから…」
よくあるマフィア映画の取引シーンだ、確かに子供の頃はこういったものに、憧れに似たような感情を抱いたことがある。それにこういう暗号めいたものは
「ワクワクする…」
「そう!そう!ワクワクなんだよな!!」
内藤は顎鬚をさすりながら、僕に指をさす、よほど共感してくれたのが嬉しかったのか、さらに僕の近くへと椅子に座りながら、ローラーを稼働させ近づいてくる。
「でもさ、適当に言ったのがあってたらどうすんだろな」
少しのってやることにした。
「例えば~?」
目を爛々とさせながらこちらを凝視する内藤、少し気持ち悪い。
「んーー例えば暗号だったら…オブリガード!!とか?」
時間にして数秒ではあったが、こんなにも後悔したのは久しぶりだった。きっと内藤は笑いだすだろう。
「よくぞ…よくぞここまで辿り着いたものだ、ようやく二人目がきおったか…」
「は?」
内藤と知り合ってからそう長くはないが、こんな凛々しい顔は見たことがない。
「冗談…だよな?」
「否」
即答だった、いつまでふざけるつもりだ、のった自分も悪いが、昼休みをこんな茶番で済ますつもりは毛頭ない。時間は…
「12時55分になりました、作業員は持ち場に戻ってください」
「12時55分になりました、作業員は持ち場に戻ってください」
けたたましい通知音が響き渡る、昼休みが終わったのだ、こんな茶番で終わりを告げたのだ。
「なーーーーんてな」
へらへらとした内藤の心無い言葉が、神経を逆なでする。軽蔑の目をくれてやりながら、渋々作業帽を深々と被る。
「痛っ」
何かが帽子に入っていたのだ、手に取ってみると、銀のネクタイピン、それに何か紙が挟まっている。
【length向かいの家 チャイム三回 】
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