1. 戦闘

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

1. 戦闘

そこは硝煙の匂いが一面に漂っていた。どこまでも灰色の煙の中で、ゆらりと彼は立ち上がる。 (あと、30分、帰投時間まで) 覚束無い足取りの中で、彼の頭に浮かんだのは今まで倒した敵でも、目の前で倒れた上官の安否でもなく、任務終了までの時間だった。 その時、不意にゾクリと背筋が粟立った。幾多もの戦場で感じたこの予感は、生き残るために必要な動作を教えてくれる。  今までの動きが嘘のように軽快に10㍍程走ると、家の残骸の影に身を隠す。瞬間、先程まで走っていたラインを追うように銃弾が飛んでいく。あと一秒遅かったら、彼もそこら辺に転がってる奴等の仲間入りだっただろう。 起き上がるときに確認した地形と、銃弾の方向から、大体の相手の位置を割り出す。恐らく使われたのは射程距離を稼ぐだけ稼いだ片手銃だろう。自分の後ろには開けた場所しか無かったから、ライフルなんて使っていないと予測する。  そして。彼は得物を構えた。腹這いになって、微調整を整える。 「命が惜しければ隠れてりゃ良いのに。変なやつ」 撃鉄を起こす。相手の頭蓋骨にピントを合わせて一発。避けさせる暇もなく、向こう側へと体を倒させた。 「はぁ…。疲れた」 彼は得物を肩に掛けると、フラフラと目標地点まで再び歩き出す。  夕焼けに写し出されたシルエットは、だらしなくスーツを着崩て、スナイパーライフルを肩から掛ける青年の姿だった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!