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1. 戦闘
そこは硝煙の匂いが一面に漂っていた。どこまでも灰色の煙の中で、ゆらりと彼は立ち上がる。
(あと、30分、帰投時間まで)
覚束無い足取りの中で、彼の頭に浮かんだのは今まで倒した敵でも、目の前で倒れた上官の安否でもなく、任務終了までの時間だった。
その時、不意にゾクリと背筋が粟立った。幾多もの戦場で感じたこの予感は、生き残るために必要な動作を教えてくれる。
今までの動きが嘘のように軽快に10㍍程走ると、家の残骸の影に身を隠す。瞬間、先程まで走っていたラインを追うように銃弾が飛んでいく。あと一秒遅かったら、彼もそこら辺に転がってる奴等の仲間入りだっただろう。
起き上がるときに確認した地形と、銃弾の方向から、大体の相手の位置を割り出す。恐らく使われたのは射程距離を稼ぐだけ稼いだ片手銃だろう。自分の後ろには開けた場所しか無かったから、ライフルなんて使っていないと予測する。
そして。彼は得物を構えた。腹這いになって、微調整を整える。
「命が惜しければ隠れてりゃ良いのに。変なやつ」
撃鉄を起こす。相手の頭蓋骨にピントを合わせて一発。避けさせる暇もなく、向こう側へと体を倒させた。
「はぁ…。疲れた」
彼は得物を肩に掛けると、フラフラと目標地点まで再び歩き出す。
夕焼けに写し出されたシルエットは、だらしなくスーツを着崩て、スナイパーライフルを肩から掛ける青年の姿だった。
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