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いつも混んでいた駅前の歩道にはサラリーマンの姿もなく、道端に群がる鳩は人間の嘔吐物をさもご馳走であるかのように啄んでいた。
「うえっ」
僕は呻き声を一つ上げて、視線を改札へと向ける。
そうして、しばらくしてから無地の半袖ワイシャツ姿に、茶色の麦わら帽子をかぶった男性が改札から出てきた。
「三宅おじさん!」
僕はそう声を張り上げながら、両手を大きく振った。おじさんはそれに気付き、僕の前で止まる。
そうして少し笑って徐に僕の頭に触れた。
『大きくなったな』という意味だと、僕はそう解釈した。
「家、皆、集まって......」
三角を作ってすぐ右手で丸を描いて指差す。適当なジェスチャーだったにも拘わらず、おじさんは頷いた。
「あと、これ......お母さんから......」
僕は母から預かっていた手紙を彼に渡した。
おじさんは雑に封筒を破って、中に入っていた紙を読んでいた。
横目で覗いた限りでは『友保とお墓参りに行ってきて欲しい』という内容の手紙だった。
僕が母から言われたのは、おじさんだけ家に来る日が違うから迎えに行って、ついでに墓参りしてこいとのこと。
すでに家に集まっている親戚たちは昨日お寺に行ったそうだ。僕は部活で夕方まで学校にいた。だからまだ墓参りを済ませていない。
親戚たちをもてなすのに大忙しの母は、都合よく僕を使っていた。そんな母の策略に乗せられたとでも言うべきか。
というのも、僕はこのおじさんが苦手だった。
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