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「ちょっと、おじさん!お寺はこっちだよ!」
真逆の方向に行こうとするおじさんの腕を引っ張った。おじさんは振り返って自分の顔を指差す。
「......顔が何?どうかしたの?」
首を傾げる僕を見て、おじさんは一度顔を横に振り、人差し指を自分の鼻にくっつけた。
「鼻?......ああ、花ね」
僕が頷いたのを見て、彼は前の横断歩道を渡った。仕方なくついていく僕。
大通りの裏にある花屋へ行き、おじさんは身振り手振りで店の人とコミュニケーションを図ろうとしていた。
それが手話だったのかさえ僕には分からない。
「えと......ちょっと分からないです。あの、仏壇用の花じゃなくて?」
店員の女性が菊の花束を指差すが、おじさんは顔を横に揺らす。
「ちょっと、通訳お願いできる?」
女性は迷わず僕に目を向けてそう言った。
「あの、すみません。僕も手話できなくて......」
動きを止めた僕らを見て、おじさんは背負っていたリュックサックからペンを取り出し、先程の手紙の裏に文字を書き込んだ。
そうしてそれを店員に見せる。
「ひまわりの花束を?7、8本?」
店員も僕も驚いた顔をしていた。墓に添える花とは到底思えなかったからだ。
「待ってよ、おじさん。お墓に行くんだよ?ひまわりなんて......」
僕は菊以外の花が飾られているのを見たことがなかった。
「もしかしたら、その方が好きだった花なのかしら?」
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