本屋さんとチャラ男

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 別の目的があるのならそうはいかない。  これは読子から良男への別れの言葉にも等しい。  それにもし良男が強盗を企んでいるのなら人魚書店を守護る罪の世界の本がそれを許さない。良男の性格を考えれば生還するよりも管理者に処刑される方が早いかもしれない。 「店長───」  良男は読子に言い寄られて顔を沈めた。  もしかして言い過ぎたかなと読子は少し心配するが、それは思い過ごしだった。  むしろ目の前の彼はかつて店員だった頃の呑む買う打つに現を抜かす遊び人としての心は残されていないようだ。 「うらぁ!」  背中に隠し持っていた特殊警棒を抜いて良男は読子に殴りかかったのだ。  側頭に傷が出来て赤い血が噴き出す。  その返り血を浴びる良男は悪魔のような顔をしていた。その顔に、読子にもてあそばれている間は小汚いとはいえ天使のようだった過去の面影はもう無い。 「アンタが悪いんだ! 余計な勘ぐりをするから!」  良男は何度も読子を殴りつけた。  畳に血が染みて一般的な成人女性なら死を迎えているほどに失血している。  この良男は遊び金欲しさで既に二人の人間に手をかけている。もはや彼は手遅れなのだ。 「死んじまったか? 持てるだけもってずらかるか」     
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