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ふふっ、怖いの?
でも、大丈夫だよ。
雅人は手の中のモノを男に向かって振り下ろした。
ガツン、と鈍い音がした。
どうして怖がるの?
さんざん僕をいたぶってきたくせに。
雅人が睨みつけると、男も同じように睨みつけてくる。
怒っている?
従順な飼い犬だと思っていた僕が刃向かうから?
ふふっ、と笑い声がする。
男は笑っていた。
どうして?
どうして笑う?
雅人は困惑する。
闇雲に手にしたモノを突きたてる。
ピシッ、と音がした、と思ったら、ガチャン、となにかが大きな音をたてて壊れた。
男の顔だ。
壊れていくのは。
ふふっ。
雅人は笑う。
視界いっぱいに赤い色が大輪の花が開くように広がっていく。
綺麗な赤色──。
意識が遠くなっていく。
それは、あの時の感覚に少し似ている。
けれども、真っ白ではなく、真っ赤なのだ。
どくどくと湧き出すあたたかな赤い泉。
くっく、という男の機械的な笑い声。
雅人は眉を顰める。
嘘だ。男は壊れて、もういない。
僕が、この手で壊したのだから。
笑い声は、雅人の内側から聞こえてくる。
違う、違う──。
けれども、もうなにも考えることができない。
すべてが赤い闇に飲み込まれてしまったから──。
(この続きは書籍版でお楽しみください)
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