第3章

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 ふるふると頭を振り、意識的に頭から追い出して、バスルームに入った。  貴之が雅人の知らないところでどんな性癖を持っていようが関係ない、と無理にも思おうとした。  かけ湯をしながら、自分の身体に目を落とすと、まだあちこちにうっすらと赤い痣が残っていた。  男とのことが脳裏をよぎったが、まさかここまではやってこないだろう。  なにより、ここには貴之がいる。  バスタブに浸かると、心地よい温みに緊張が解けてくる。  温かな湯にゆったりと浸っていると眠気が襲ってきた。  今夜からはゆっくり安眠できるに違いない。  うっかりすると、バスタブの中で眠りそうになるのを雅人は堪える。  男につけられた傷や痣が、泡だらけのタオルで触れるたび、ひりひり滲みた。  ふいにシンク下のビニール袋がまざまざと目に浮かぶ。と、同時に男の冷たい声や手触りも。 「雅人?」  バスルームのドアがノックされたと思ったら、貴之が声をかけてきた。 「なに?」  磨り硝子でできたドアの前に立つ貴之のシルエットを雅人は見上げた。 「いや、ちょっと遅いから、風呂場で倒れたんじゃないかって心配してたんだ」 「ああ、ごめん。だいじょうぶだよ」 ならいいんだけど、と貴之が呟いて、ドアの前から立ち去る気配がする。  バスルームを出てリビングに戻ると、暖房のきいたあたたかな部屋で、貴之はブランデーグラスを片手に光希とゲームをはさんで笑っていた。 「やあ、雅人も飲むかい?」  貴之は、雅人に気づくと声をかけた。 「あ、いや」  曖昧な断りの言葉を口にした。男はここまでこないとは思ってはいても、あまり飲み過ぎて悪夢を見るのが怖かった。  光希の誕生日の夜、ワインをしたたかに飲んで淫夢を見たことがトラウマになっているのだ。 「そう」  貴之は、それ以上勧めることなく、光希との会話に戻った。雅人にはよくわからない単語がぽんぽんと飛び交わされて、軽い嫉妬を覚える。  嫉妬? どっちに?   一瞬だけ湧き起こった感情に雅人は戸惑う。  どっちに嫉妬しているというのか。  光希の天使のような笑顔を占領している貴之に? それとも貴之の穏やかで優しい眼差しを独占している光希に?  雅人は頭を振る。  どちらもいつも自分に向けられているものだ。
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