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「こうして雅人と夜を過ごせる日がくるなんて、思ってもいなかったよ」
「貴之」
「本当にここに雅人がいるのが、まだ信じられない。ねえ、僕は夢を見ているのか?」
貴之の手が雅人の頬を包み込んだ。
「夢じゃないよ。本当にここにいるよ」
「このまま手を離したら、またいなくなってしまいそうだ」
「いなくなったりしないよ」
16年前の学生時代に、雅人の気持ちは戻っていく。
誰よりも貴之を愛していたあの頃──。
貴之は、16年間、ずっと雅人のことを想ってくれていたのだ。
そう思うと、貴之へのいとしさが堰をきったようにこみ上げてくる。
きりりとした双眸が雅人を覗き込んでいる。
頭がぼうっとするのはブラッディマリーに少し入れたというウォッカのせいだろうか。
「パパ」
かちゃりとドアが開いた。
「どうしたの? 光希」
あわてて貴之から身体を離す。
「目が覚めたら知らないところだったから……、ひとりじゃ怖いよ」
今にも泣きそうな顔で、光希は雅人に抱きついてきた。
「ああ、ごめんね。ぐっすり寝ていたから、だいじょうぶだと思ったんだ」
「ねえ、一緒に寝て?」
光希はちいさな頭を雅人に擦りつけてくる。
「わかった。ほんとにごめんね、さみしかったよね、知らないところでひとりじゃ」
ぎゅっと光希は雅人に抱きつく。雅人も包み込むように光希を抱きしめる。
「パパァ」
舌足らずの甘ったれた声は、男子高校生とは思えない。
「ふふ、ほんとに光希は甘えん坊だなあ、よしよし」
天使のように愛らしい光希の頭を撫でると、雅人は貴之に振り返った。
「ごめんね、僕も今日はもう休むよ、おやすみ、貴之」
「あ、ああ」
「パパ、早くベッドに行こうよ。僕、もう眠くなっちゃった」
「あ、うん、しょうがないね、光希は」
昼間は一緒に寝るのがいやみたいにぶうたれていたくせに、ほんとにさみしがりやで甘えっ子だ。
もっとも雅人が光希をそう育ててしまったのかもしれないけれど。
フリールームに入ると雅人はパジャマに着替えて、光希とともにベッドへ入った。
思えば、光希と一緒に寝るのは小学校卒業以来だ。
ひとりで寝る、と光希が言い出して、いつまでもちいさな子どものように思っていた雅人はさびしくなったものだった。
あれから4年になる。けれど、多少成長してはいたが、光希は、まったく変わることなく、あどけなくかわいらしかった。
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