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そもそも町田はいつ、雅人を知ったのだろう。
いや、雅人よりも前に光希と知り合いになっていたのだ。
なにも知らない光希から、なんらかの情報を得ていたに違いない。
――あのマンションで酷いことが起こるよ。
貴方はひとりで遠くへ逃げればいいのに。
町田の予言めいた言葉が脳裏に甦る。
やはり町田に違いない。
ただ、どうしてもわからないことがある。
町田はどうやって貴之の部屋に入り込めたのだろう。
そして、どうやって姿を見せずに、この家に入り込めたのだろう。
雅人のなかにひとつの疑念が湧き上がる。
もしも侵入したのが町田ではなかったとしたら?
本当に誰もこの家にも、貴之のマンションにも侵入していなかったとしたら?
それはいったいどういうことだろうか。
では、夜毎、雅人を弄び辱めたあの男は?
考えまいとして、ずっと閉じこめていた疑念が、ふっと頭をよぎる。
深く意識を失っている間の、もうひとりの自分の存在──。
もしかしたら自分の知らないもうひとりの自分が、自分自身の身体を弄んでいたのだとしたら。
ふらふらと立ち上がると、雅人は寝室へと向かった。
壁際に置いてあるローチェストの一番下の引き出しを開ける。
素っ気ない男物の下着の奥底に手を潜らせる。
縄や鞭、黒い布、手足の枷、蝋燭。
しかし確かにここに仕舞ってあったはずの、バイブもローターもない。
雅人は眉を潜める。
男は、どうしてここにこういった類のものが仕舞ってあることを知っていたのだろうか?
今まで考えないようにしていたことが、ふつふつと湧き出す。
雅人は、ベッドに自分で自分の両足を括りつけてみた。
それから黒布で目隠しをする。
自分でできた。
では後ろ手は、どうだろうか。
シルクのネクタイを器用に扱って、両手を縛っていく。
ちゃんと後ろ手にできた。
自分でも自分を拘束することができるのだ。
身体の傷や痣も、拘束する前に物差しで叩いたり、胸や腹部に蝋燭を垂らしたりもできそうだ。
いや、それなら電話がかかってきたことは?
自分で自分に電話をかけることは無理だ。
手を今しているネクタイを解き、足枷をはずすと、雅人は携帯電話を取り上げた。
タップして、着信履歴を見る。
しかし、「亜矢」からの着信履歴はなかった。
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