嘘の花

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「でもどうせなら美味しいものが食べたかったな。チョコバナナとか、わたあめとか」 「出そうか?」 「ううん、いい。食べても味しないもん」  そうだね、返事をしてからくしゃみをした。紙袋を潰したような僕のくしゃみを未希はいつも笑った。  けど今日は、不機嫌そうに頬を膨らませる。 「なに、寒いの?」 「うーん、少し」 「ダメだよ。夏なんだから、我慢して」 「そんな無茶な」  抗議すると、未希はむくれていた顔を急に萎ませて、瞳を深海のように暗くした。 「また二人で、来たかったんだもん」 「うん」 「あの時が初めて……だったから」  未希は深海から浮かび上がって水面から飛び出すとそのまま大気圏を突破、太陽みたいに顔を赤くする。  初めて。初めてのデート。初めての恋人繋ぎ。初めての、キス。  彼女はどの初めてのことを言ったのか。全てかもしれないし、まるっきり違うことかもしれない。  風船から空気が抜けていくような音がした。大地と夜空を繋ぐ柱のように、光の筋が舞い上がっていく。 「あ、花火」  未希の視線が、今にも花開きそうな種子に吸い寄せられる。
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