40人が本棚に入れています
本棚に追加
針と糸なんて家庭科の授業で触る程度だった右京ちゃんはまだ玉結びと玉留めの練習中で、簡単なものでも作って見せるとそれはそれは驚いて、感動して、すごいすごいと褒めてくれる。かわいい後輩ができて俺は大変嬉しい。
右京ちゃんて呼んでるけど、まだ少し大きい学ランを着た男の子だ。真っ黒い目と髪は綺麗だけど、眼鏡も黒縁だし学ランも普通に黒いから暗がりで会ったらビビるかもしれない。ゲームが好きだという彼の肌は白くて、暗闇で絶対浮く。
俺より二十センチくらい小さい右京ちゃんはクラスでも小柄な方だろう。でも最近は成長痛に悩み始めているらしいから、来年は見違えるほどカッコよくなってるかもしれない。
「服の方も忘れないでね」
「必死に見ないようにしてた現実ぅ」
机に突っ伏して嘆いたら、思ったよりずっと情けない声がでた。沈み気味だった気分がもっと沈んでく。
ふわふわすぎる布団に埋もれて出られないっていうより、軽めの重石つけられて炭酸水にゆっくり沈んでくみたいな感じ。微妙な息苦しさと、肌をちくちく刺す無力感。重石さえ外してしまえば自分で泳いでいけるはずなのに、さしてキツくもない結び目が解けない。
最初のコメントを投稿しよう!