特定者の監視

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特定者の監視

 外部からの光を一切遮断した真っ暗な部屋の中で、僕は目の前に並んだ幾つものモニターと睨めっこしていた。  そこには某SNSの画面が表示されていて、たくさんのアカウントのつぶやきが目の前を川の水のように流れていた。モニターの隅に表示されている日付けは7月29日の土曜日。ここ数日「ツレとフェスに参戦なう」とか「ウチの学校宿題が多すぎて死にそう」とかそんなつぶやきを多く見るようになった。どうやら世間の子供達は夏休みに入ったらしい。まぁかく言う僕も17歳の高校生という立派な子供なのだが、ここ数ヶ月は学校に行ってないし、部屋からも出ないからたった今、日付けを見るまではその事に気づきもしなかった。  このまま何もせずに自分の部屋の中でゴロゴロしていても良かったのだけど少しばかり罪悪感を覚えたので、僕はネットで見つけた今のアルバイトを始めるようになったのだ。  そのアルバイトの内容はというとまぁ簡単に言えばSNSの監視だ。よくタイムライン監視中とかつぶやいてる人がいるけどまさにそれ。僕は今、世間の人達がどんなことを呟いているのかをチェックしているのだ。何故そんな事をするのか。それはとある病気に起因する。 「断罪病」という病気を皆さんはご存知だろうか。  SNS上で誰かが犯罪やそれに近い悪事を働いた事を自慢するようなつぶやきをした時、思わずそのつぶやきをスクリーンショットして拡散したり、その人の住所や氏名、年齢などの個人情報を特定し、公開したりしてしまうという病気である。その病状は酷く曖昧だがこれらの行動を行う人はこの病気にあたり、現在では全世界で数百万人存在すると言われている。  その人達を見つけて雇い主に報告、いやチクるのが僕の仕事というわけだ。それからその人達がどうなってるのかは分からない。だってそれを聞こうにも自分の雇い主を僕はまだ知らないのだから。契約を結ぶやり取りは全てメールで行われた。それは一方的に向こうから送られてくるもので名前すら教えてもらえなかったから最初は不審に思ったが、ちゃんと口座に給料は振り込まれてるし、このバイトを始めて数ヶ月、特に異常は見られないので怪しい仕事には変わりないが少なくとも詐欺とかではないだろう。
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