夜道での出会い

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夜道での出会い

 ある夜。美代子(みよこ)は仕事が遅くまでかかったせいで、辺りの家灯りも消えた時間に一人で帰路についていた。  ばちり、という街路灯の音に肩を跳ね上げ、なんとはなしに腕時計を見る。短針はすでに1の表示を超えており、じきに次の数字を示そうとしていた。  普段は何気なく通っている道だというのに、腕時計を見て頭に過ぎったもののせいか、それともただ単に暗闇が深いせいか、今はとても不気味に見える。ここ最近、若い女性が刃物で切りつけられるという事件が多発しており、「切りつけ魔」の注意を促す貼り紙がそこかしこに貼られていることも美代子の恐怖心をあおっていた。 「もう! ほんっと嫌だわ! 部長ったらなによ! あのハゲ、自分だけ先に帰っちゃて! なーにが、効率よく仕事しなさい、よ! お前が短気起こしてデータ飛ばしたりしなかったら残業もせずに帰れてたんだっつーの!」  恐怖心を紛らわせるために、上司への不満を声に出しながら歩く。耳に入ってくる己の声にそれは多少紛れたものの、同時に辺りの静けさを浮き彫りにしてしまう結果にもなり、孤独感は増していった。  やがて不満も底をつき、黙々と歩き続けていた美代子の背中を、誰かの声が叩いた。 「ひとりあるきは、あぶないよ」  突然のことに出そうになった悲鳴を口の中に押しやって振り返れば、立っていたのは十四、五歳ほどの少女。さらりと揺れる黒いロングヘア―と、街路灯に照らされる顔色を見ても、とてもこんな時間に出歩くような人間には見えない。 「おねえさん、この近く? だったら一緒に行こうよ」  見知らぬ人間である、ということにおいても恐ろしさを覚えるが、しかし少女が自分より年下であることと、同性であるということが美代子に安堵感をもたらした。溜息とともに落ちた両肩が、先ほどまでの緊張感を物語る。怖い怖いとは思っていたがこんな高さまで肩が上がるほど自分は怖がっていたのか、と少しばかりの苦笑がこぼれた。 「ええ、あなたもなのね? こんな時間に、子供が出歩いちゃダメよ。お姉さんがお家まで送ってあげる」 「ほんと!?」 「ええ」  肯きに返ったあまりに嬉しそうな少女の笑みに、美代子は今までの恐怖もすっかり忘れて、つられてにっこりと笑った。そのときだった。 「あんた! なにしてるんだい!」  行く手から、女が一人現れた。
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