第一話 花天月地

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火焔は地に降り立つと、花香の目の前に立つ。 炎のように激しく燃える瞳で彼を見つめる。 「花香」 低めで張りのある情熱的な声。 花香はその声で名前を呼ばれるとクラクラした。 その炎ように燃える瞳に見つめられると、 そのまま彼の胸に身を預けてしまいそうになる。 「火焔…」 花香は蕩けるような笑みで、彼に答えた。 青紫色の瞳が、微かに艶を帯びる。 火焔はそんな花香を見ると、 そのまま強引に抱きしめ、その美しい肌に自らの痕跡を残したくなる。 思うままに彼の唇を蹂躙し、その肌に唇を這わせ…。 あぁ、それが出来たなら。 五聖はいついかなる時も、そのバランスを均衡に保たねばならない。 感情に流されてしまうなど、言語道断だった。 そう、宿命づけられていた。 だから火焔は、見つめるだけで満足だった。 花香もまた、見つめられるだけで嬉しかった。 (火焔…) 水鏡はそんな火焔を、慈愛と悲しみのこもった眼差しで見つめていた。 その炎のような激情を受け止めてやりたい。 水の持つ力なら、それが可能なのだ。 自らなら、彼の熱すぎる想いを適度に冷やしてあげられる。 互いに相反する力。この二聖は互いに「相殺」の間柄。 言わば、活かし合うのではなく、互いに牽制し合う相性だった。 水鏡は時々想う。 相性や宿命などに構うことなく、欲しいものは欲しい! そう言えたなら…。 己の溢れる感情のままに火焔を抱きしめたい。 そして花香を手折ってしまいたい。 その全てを呑み込み、無に返してしまえたら…。 けれどもそれは、叶わぬ夢…。 そして水鏡は、いつものように涼しげな笑顔の仮面を被る。 「…今宵は、月が格別に美しくなりますよ」 花香と火焔に声をかけた。 言われるままに、天空を見上げる花香と火焔。 空には、昇りたての淡い月が浮かんでいた。 今宵、夜空は尚一層黒々と艶めき、月は花々を強く照らし出すだろう。 そして花々は月の光をまとい、益々色鮮やかに、一層輝く事だろう。 神はこの光景をこう名付けた。 「花天月地」と。
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