第一話 花天月地

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大地は溢れる水を受け止め、 水は乾いた大地を潤す。 潤った大地に、生命(いのち)の結晶が芽吹く。 そして芽吹いた命に、炎がそのエネルギーを分け与える。 木々が青々と生い茂り、 色とりどりの花々が咲き乱れていた。 風がこの上無く優しく花々と木々を撫でていく。 見目麗しい乙女が空を舞っている。 桜色の天女のような衣を纏い、淡い桃色の長い髪を靡かせた 一体の『風の乙女』が萌黄色の大きな扇を広げ、 大地に向かって優雅に仰ぐ。 それが『風』紡ぎ、微風となって空を舞うのだ。 「何か、変わりはありませんか?」 そこへ、流麗で涼やかな声が響く。 風の乙女は頬を紅に染め、 美しい茶色の瞳で声の主を見上げた。 「水鏡(すいきょう)様…」 乙女が恥じらいながらその名を呼んだ主は、 五聖の内の『水』を司る男聖であった。 その男聖は痩せて背が高く、雪のように白い肌を持つ。 その服装は、 青白磁(せいはくじ)(淡い薄緑色)の漢服の直裾(漢王朝貴族の服)を 思わせるものに身を包み、紺碧の長い帯を締めている。 卵型の顔の輪郭を、 薄花色(明るく淡い青紫色)の豊かな髪がフサフサと靡く。 それは腰の下あたりまで伸ばされ、 細く上品な眉と、長く繊細な睫毛は、髪と同じ色である。 涼やかな瞳は、天色(あまいろ。澄んだ晴天の空のように鮮やかな青) で、白い肌をより引き立てる。 この上無く端麗で優し気な顔立ちの男聖で、 風の乙女が恥じらうのも無理なからぬ事であろう。 「はい、つつがなく花は咲き、木々は茂っております」 と乙女は丁寧に頭を下げた。 「その調子で、宜しくお願いしますね。 何かあったらすぐに連絡を下さいね」 水鏡は乙女に声をかける。 「はい、承知致しました」 と乙女は答えると、天へと飛び立って行った。 他の場所で風を吹かせる為である。 水鏡は穏やかに風の乙女を見送った。
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