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……そうか。教師ではないかと思ってはいたが、なんと教頭先生だったのか……。
「ま、紫苑先生も文革祭中は茂尾の味方して難を逃れてたし、ちょっとズルいとこもあるんですけどね。でも、紫苑先生が庇ってくれたおかげで助かった保守派の生徒も多いんです。茂尾達の手前、みんな革新派のフリしてましたけど、内心は保守派に賛成だったから紫苑先生も一躍大人気です。あ、僕もそろそろ作業に戻らなきゃいけないんでこれで」
最後にそう付け加えると、純真な目をした男子生徒はペコリとお辞儀をして走り去って行く。
昨日は嬉々として教師や学校を攻撃していたように見えたが、果たして本当に皆、内心その暴力的行為に反対していたのだろうか?
その爽やかに去り行く彼の背中を眺めながら、一夜にして一変してしまったこの学校の有様に、私は社会の縮図を見たように感じていた。
なんと大衆は扇動に弱く、ころころと手のひら返しをすることだろうか……これは保守も革新も、右も左も関係ない。熱狂の高揚感に酔いしれる心地良さに、人はいとも簡単に暴走してしまうのだ。
昨日、声高らかに茂尾の名を連呼していた生徒達が、今日は紫苑教頭を笑顔で囲み、和気あいあいと茂尾の仕出かした後始末をしている。
私は、暴走する大衆の無自覚な罪悪を前に、どこか未来への不安にも似た、形容しがたき恐ろしさを感じた。
(文化大革命祭 了)
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