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特設ステージの吊し上げに続き、またしてもその場の空気に辟易してしまった私は、まるで逃げ込むかのようにして校舎内へ入ることにした。
「…………ここもか」
だが、けっきょく校舎内も外と変わり映えはしなかった。
その多くの教室で行われていたのは茂尾思想研究部だの、茂尾思想革命団の各学年支部だのといった団体による、どれもこれも同じような内容の茂尾拓斗を讃える壁新聞研究発表である。
時折、華道部や手芸部なんかのごくごく一般的な部活発表が珍しくあったかと思えば、それも茂尾主席委員の好きな花だったり、茂尾思想に準じた正しい服装の在り方と称した新たな制服の展示(あの生徒達が着てたやつだ)だったりと、いい加減、食あたりしそうなくらい、どちらを向いても茂尾拓斗ばかりだった。
一応、文化祭には定番の喫茶店もあったので、一休みする目的も兼ねて入ってみたのであるが、案の定というかなんというか、そこで出されているメニューも茂尾主席委員がいつも飲んでいるウーロン茶だったり、お茶菓子も彼の好物だという中華蒸しパンだったりである。
また、視聴覚室では映研が制作したという茂尾の半生を描いた映画が上映され、体育館の方では同じく茂尾を主人公にしたミュージカルを演劇部が上演していたが、こちらはさすがにもう入る気にもならなかった。
その代わりに入って「やめときゃよかった」と思ったのが〝お化け屋敷〟である。
けしてクオリティが高いとは言えぬ、生徒の作った粗雑な素人制作のそれに、正直、私は恐怖を感じた……。
いや、といっても単純に「お化けの仕掛けが怖かった」ということではない。
というより、それは世間一般にいうところの〝お化け屋敷〟ではないのだ。
「生徒を苦しめる悪逆非道な化け物」と称して、悪意ある造形のなされた教師のマネキン人形が陳列される、お化け屋敷というよりも見世物小屋のような興業だったのである。
柳校長を初めとする極悪にデフォルメされた実物大先生人形達が、男子生徒役の人形にひどい体罰を加えたり、女子生徒マネキンには口にできないような猥褻行為を働いている。
おそらくは真実ではなく、捏造された犯罪の場面展示なのであろうが、こうしたものを全校生徒達に見せ、教師に対する負のイメージを植えつけようという魂胆に違いない。
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