31人が本棚に入れています
本棚に追加
ここまでデフォルメがひどいと、スポーツ新聞や週刊誌の如く、むしろ真実味がなくなるように思えるのだが……でも、あの生徒達の熱狂ぶりからすると、こんなチンケな展示でもプロパガンダになるのかもしれない。
にしても、いくら学生自治のためだからといって、こんな卑劣なやり方で教師を悪者に仕立てようとするだなんて……さっきの吊し上げといい、悪趣味にもほどがある。
私はまたも胸糞が悪くなり、早々に校舎を出て退散することにした。
屋外に出ると、それでもけっこうな時間、見学していたらしく、辺りはもう薄暗くなっていた。そもそもここへ来たのが夕方近くだったから、そろそろ日暮れの時刻なのだ。
そんな薄暗い会場の中、なにげなく校庭の方を覗えば、オレンジ色の炎がチラチラと燃え上がっているのが見える。
どうやら、これも文化祭の夜の定番、キャンプファイヤーをやっているらしい……。
もう文化祭も終わりだし、これから後夜祭でも行うのだろうか?
異様としか言いようのないこのお祭り騒ぎであるが、こんなところは普通の学校の文化祭と変わりないのだな…などと、少々安堵するような心持ちでそちらへと近づいて行ったのだが……
私は、またしても驚愕と戸惑いの感情に目を見開いて立ち尽くしてしまう。
燃えていたものは、薪でも、松明でも。文化祭の準備で出たゴミでもなかったのだ。
それは本来、そのように燃やすことも、粗末に扱うことも許されぬもの……
そう……校庭の真ん中で、夕暮れの空を焦がす紅蓮の炎に赤々と燃えていたのは、山積みにされた大量の教科書類だったのである。
「見ろ! 悪書が灰になっていくぞ!」
「悪書を廃し、茂尾思想に則った正しき学校教育をここから始めるのだ!」
その背徳的なキャンプファイヤーを取り囲む生徒達の輪の中からは、そんな自分達の暴力に酔いしれる声が熱狂とともに上がっている。
教師ばかりでなく、教科書にまで攻撃を加えるだなんて……こんなことが許されていいのか? ……いや、これはもうすでに一線どころか、二線も三線も超えてしまっているだろう!
私は段々と怖くなってきて、今度こそ逃げ去るようにして足早にその学校を後にした――。
最初のコメントを投稿しよう!