秘密

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秘密

「ありがとう」  声がかかり、慌ててバッグから目を離してお姉さんの方を見ると、水を飲み終えて、こちらに薄く微笑んでいた。 「本当に、助かったわ……。のどがカラカラだったから。なんだか生き返ったみたい」  お姉さんはペットボトルのフタを閉め、枕もとにそっと転がした。 「そ、そうですか。それは良かったです」  取り乱している自分を落ち着かせようとすると、手にまだおつりを握りしめていることに気が付き、返そうとしたが、お姉さんはそれを拒んだ。 「いいの、本当に迷惑かけちゃってるから。少しだけど、何かの足しにして。……高校生、かな? 学校の帰りだった? おうちに帰らなくて大丈夫?」  話しながらも、息は荒い。お姉さんは眩しいのか、それともそうしていた方が楽なのか、よく顔に手を当てて覆い隠すようにしている。 「大丈夫です、ただベンチに座っていただけなんで」  まだ幾らか動揺していた僕は、自分が妙なことを口走ってしまったのではないかと後悔したが、時はすでに遅かった。 「ベンチ? もしかして、誰かと待ち合わせたりしてた?」  お姉さんは顔から手を離して、こちらを見た。汗で額に張り付いた前髪の間から、大きな目をさらに見開いて、何かごまかしのきかないような、真剣なまなざしをのぞかせている。 「あ、いえ、そういうんじゃなくて……」  僕は、特にうしろめたいことが何もないことを心の中で確認してから、続けた。 「……ただ、ベンチに座ってたんです」  お姉さんは、一瞬わけが分からないという顔をしてから、うう、と小さく唸って、壁の方に体をよじった。 「まだ気持ち悪いですか? あまり話したりしない方が……」  お姉さんは、転がしておいたペットボトルをそのままの姿勢で握りしめ、 「ううん、話してると幾らか気分が紛れるから、君さえよければ、もう少しこうしていてくれると、助かるんだけど……」  再びフタを外して、横向きのまま2、3口を口に運んだ。僕はそう言われて、妙に嬉しい気持ちになってしまい、 「全然大丈夫です。本当に、いつも暇なんで」  と元気良く答えた。そして、無理にでも何か話し続けなければと考え、 「いつもただ、ホームのベンチに座ってるんです。何の意味もなく。ひたすらに一人で。馬鹿みたいですよね。ははは」  と、自分自身気が抜けたような気持ちで笑い、頭を掻いた。
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