メガネの駅員さん

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メガネの駅員さん

「ど、どうしました、大丈夫ですか?」  メガネをかけた新人らしい駅員さんが慌てた様子で聞き、さすがにお姉さんも強がっていられないと思ったのか、 「ちょっとお腹が痛くて……気持ちが悪くなってしまって……」  と、きれぎれに説明している。いくつかの受け答えの後、とりあえずは駅員室に運ばれることになり、メガネの駅員さんはどこからか車イスを持ってきて、お姉さんを乗せた。  お姉さんはぐったりとしたまま、ホームにあるエレベーターまで車イスで押されて行った。僕は当たり前のようにお姉さんのバッグを抱え、二人の後をついて行った。メガネの駅員さんはひどく狼狽していたようだったし、お姉さんはうつむいていたから、無関係な僕がついて行っても、特段止められるようなことはなかった。バッグは教科書の入った自分の通学カバンと同じぐらいか、あるいはそれ以上にずっしりと重かった。  エレベーターは気づまりな雰囲気の中で上昇して行き、ただお姉さんの苦しそうな呼吸音や、症状を落ち着かせようとするような細長いため息が聞こえているだけだった。僕は、どうして駅のエレベーターってこうも遅いんだろう、などと理不尽な苛立ちをつのらせたりしていたが、やっとのことで1階に到着し、僕たちは車イスをガタガタ揺らしながら、駅員室へと急いだ。 「ごめんなさい、トイレ……」  途中でお姉さんが不意につぶやき、方向転換せざるを得なかったが、近くにトイレがあって駆け込めたのはラッキーだったと思う。ふらふらながら、お姉さんはなんとか一人で立ち上がって、女子トイレへと入って行った。一人で歩けるならもう大丈夫かなとも考えたけれど、ここで離れるのもなんだか逃げたようになってしまう気がしたので、黙って待っていた。横目で見ると、駅員さんはしきりに帽子やメガネの位置を直したり、車イスのハンドルを握ったり離したり、腕時計を見て何かをつぶやいたりと、とにかく落ち着かない様子だった。
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