駅員室

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駅員室

 二人でじっと立っているのにも疲れてきた頃にやっと、 「すみません……」  と、お姉さんがふらつきながら出てきた。さっきよりは幾らか顔色が良くなったようにも見える。よろよろとまた車イスの座面に座り、再出発した。お姉さんは一度僕の方をちらっと見て、何か言いかけたようだったけれど、僕が持っているオレンジ色のバッグに目を落とし、結局は何も言わずに、元のうつむく態勢に戻ってしまった。  駅員室の扉を開けると、普段は目にしないような光景がとびこんできた。左側には見たことのない機械や、棚や、数台の机が所狭しと並び、机の上には書類の束やファイルが山積みになっていた。  その中に座っていたのは、駅帽をかぶっていない中年の男性駅員さん一人だけで、その人も仕事をしていたというよりは、缶コーヒーを飲んでただ休憩している様子だった。その中年の駅員さんは、僕たちが入って行っても横目でちらっと見ただけで、特に関心も無いようだった。  右側には2メートルぐらいのついたてが二つ並び、その裏の壁際に小さなベッドが一つだけ置いてあった。想像していたよりもはるかに簡易的な休息場所で、勝手に学校の保健室のような空間だと思い込んでいた僕は、少し拍子抜けしてしまった。それでもとにかくお姉さんをベッドに寝かせると、やっと一息つくことができた。コートを脱がせた時、白いセーターに浮かび上がった曲線的な女性の体のラインに気がつき、一瞬ハッとして息を飲んだけれど、そんなことを考えてる場合じゃないと頭を振り、お姉さんのバッグとコートをまとめて、ベッド下のカゴの中に入れた。 「えっと、じゃあ……私はこれで」  メガネの駅員さんは急いでいたのか、車イスを片付けると、よくお姉さんの病状も確認しないまま、そそくさと逃げるように駅員室から出て行ってしまった。
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