駅員室2

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駅員室2

「あの、さっきのお姉さん、気持ち悪いみたいで……」  そこで一度、言葉を切った。「さっきのお姉さん」がこの人に通じるのか、そして僕に好意的な反応を見せるのか、大人の良心を試したかったんだ。 「はあ……」  駅員さんは驚いたままの表情を変えず、僕にその先を話すことを促した。曖昧な態度に釈然としないながらも、話を聞いてくれることはありがたく、僕は今の状況をざっと説明し、協力を求めた。 「たぶん……ああそうだ。袋は何かしら、あると思います」  中指でメガネの位置を直しながら、色白で面長な顔を僅かに引き締めて、駅員さんは肯いてくれた。そしてどこかへ行き、しばらくして、片手にビニール袋を携えて戻ってきた。 「なんとか、ありました」  息を切らして、手の平にしわくちゃに握られたポリ袋を満足げに僕の方に差し出した。 「あ、はい……」  一つだけかあ、と思いながらも僕はひとまず受け取り、ポリ袋に穴が開いていないか入念に点検しながら、この駅員さん、気が利かないなあ、などと恩知らずなことを考えたけれど、とにかく手短かにお礼を言って、駅員室へと急いだ。  中年の駅員さんが、お姉さんに悪さでもしていたらどうしよう、といった妄想のような不安を抱きながら、駅員室のドアを思い切って開けたが、特に様子が変わったところは無いようだった。駅員さんは新聞を読んでいて、相変わらずこちらに興味を示すようなことはなかった。  ついたてをベッド側に回り込むと、お姉さんは横向きになって壁の方を向き、暑いのか掛け布団を腰のあたりまで剥いで、片手を頭の上にのせている。白いセーターの背中が、苦しそうな長い呼吸音に合わせて、ふくらんだりしぼんだりしている。 「あの……」  少し躊躇しながら話しかけてみたところ、お姉さんはすぐに気付き、うん……、と小さな息を吐いて、ゆっくりとこちら側を向いた。
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