文化祭の幽霊

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「藤木先生、もう慣れましたか?」  帰り支度をしていると、向かいの席の井上先生が声をかけてくれた。体育教師の彼は不慣れな僕に何かと気を使ってくれる。  私立W高校に非常勤として働きだしてからちょうど一週間だ。2年C組を受け持っていた先生が産気づいた。本来なら副担任がそのあとを引き継ぐべきところだが、時を同じくしてその先生も交通事故に遭い入院してしまった。急なことだったので代役が見つからず、周りまわって僕のところに話が来た。もちろん二つ返事でOKした。つまり僕が一番暇人だったというわけだ。  一週間とはいっても実働は5日なのでまだまだ分からないことだらけだけど、「ええ、まあなんとか」と強がって見せた。 「そりゃよかった。ところで明日、藤木先生のクラスは何でしたっけ?」 「確か、映画の上映会をするとか言ってたはずです」  文化祭の話だ。僕が着任した時にはすでに学校のあちらこちらでその準備が進められていた。そんなことは何も聞かされていなかったので戸惑うばかりだったが、もともと文化祭とは生徒の自主性を育てるためのイベントということなので、僕に求められるものは監督のみ。つまり見ているだけでよかった。出し物は担任が休む前に決定されてもいたし。 「帰り、見回っておいた方がいいですよ。たまに一部の生徒が残って悪さしたりしますから」  井上先生はそう言って、職員室を出ていった。  助言はありがたく聞いておくことにしよう。僕は鞄を片手に北校舎へと向かった。  他のクラスは準備も終わりひっそりとしていた。ところが2年C組の方からは生徒の話し声が聞こえてくる。  上映会の準備なんて大して手間もかからないはずだ。まさか井上先生の言うように良からぬことをしているのではあるまいな。  そんなことを考えつつ教室へと向かう。すべての窓が段ボールで塞がれていた。なるほど、映画を見るためには暗い方がいいだろう。いや、待て。放課後の暗い教室で、生徒たちは一体何を?  あらぬ思いを振り払い、入口ドアに手をかけて気づいた。そこに掲げられた看板。それには『お化け屋敷』と書かれている。
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