山の端

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 元の地名を一新した地方都市。  地方開発によって出来上がり、日本でありながら横文字の名を冠されたような町。  外観だけが目新しく洒落た風ではあるが、内実は山と森に囲まれた盆地に造られた只の田舎町だった。  朱美は夜の公園のベンチで、一人ため息を漏らす。  先ほど遠距離恋愛中だった恋人に、ついに別れを切り出された。  その事はそれほどショックじゃない。最近、関係がだいぶグズついてしまっていたし、仕事の関係で自分がこの町に引っ越してからは、心の距離まで遠のいたと感じていた。  そういう意味では必然の先行きだった。  それでも落ち込んでいないと言えばウソだ。何より、仕事終わりにいきなり電話を掛けてきて、そうして一方的に別れを切り出すやり方はどうかと思う。  確かに、朱美自身がそういう空気を敏感に嗅ぎ分け、答えを出すのを先延ばしにしていた節はある。すすんで話し合おうとせず、ここ最近は恋人の事を避けていたとすら言えた。  けれども、やはり突然の事に思考は鈍ってしまう。  駅から自宅までの道すがらに電話は掛かってきた。何とか関係を修復しようと試みたが、無理だった。今はもうラインすらブロックされている。   自宅マンションの手前にあるこの公園に足を踏み入れたのも、それが理由だったかもしれない。  今は、”独り”を意識させる自室に戻りたくなかった。とは言え、こことて人気(ひとけ)はまるでない。しかし、今から繁華街である駅の方に戻る気力もなかったわけだ。  朱美は整然とした公園内から町の方を見渡した。  街灯は多く、歩道はレンガ造り、先鋭的な新築も多い街並みは、一見すればカラフルでやたら明るい。しかし、人通りは少なく、それらが余計に侘(わび)しさを強調するようだった。  高齢化問題などを改善すべく、地方の活性化を目指した企み。  しかし、その多くは定住者の頭打ちで失敗に終わり、果ては町並みだけが真新しゴーストタウンにすらなっているという。  この町もいずれそうなる運命なのだろうかと、朱美はまるで張りぼてのように嘘臭く見える町を眺めながら思った。  ふと、町とは反対の山側の風景に首を傾けた。   自然と町並みを調和させるような配慮からか、公園は山林との境界に位置していた。  整然とした人工樹林が続き、唐突にフェンスで区切られ、手の入れられていない原生林が山裾の方へと広がっている。  
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