山の端

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 広い公園の敷地内まではしっかり街灯で照らされているが、フェンスの向こう側は黒々とした森の様相だ。  それがずっと尾根の方まで広がっている。そしてさらにその山を越えた先にまで、ずっと、ずぅっと続いていくかのようだった。  昔から、この地方は山での遭難が多いと聞く。  地磁気の影響で、電波が通じないせいでもあるらしい。  最近も地元の若い学生が一人、山の中から発見され、救助されたという。  丸一日さまよったらしく、保護された時は半狂乱の状態だったらしい。「家に帰して」「置いて行かないで」と救助隊の人間に埒(らち)も無いように叫び縋っていたそうだ。  朱美自身、その話を聞いた時は、「町のすぐ近くで大げさな…」――と思っていた。  だが、この時間帯にその深い森を目の当たりすれば、確かにそんな最中に取り残された人間はどうにかなってしまうかもと感じる。  景観を重視した町の造りも結構だが、そういう面での管理の等閑(なおざり)さが、この新興住宅街の虚栄を見ているかのようだった。   ふと、朱美は山側を向いたまま、視線を上げた。  その尾根の頂上近く、木々の合間に目立つ白色を見つけた。  シーツが何かが風で飛ばされ、そこまで運ばれたのか。確かに七階建ての自宅マンションのベランダから落とせば、風に乗ってそこまでの距離に飛んでいくかもしれない。  だから朱美はその時、何の感慨も抱いていなかった。  いい加減こんな所に居てもしょうがないと、一度チラリと自宅マンションの方へと目を遣った。そしてまた、何気なくさっきの山の方へと視線を戻した。  白色が、山裾のこちら側へと、さっきよりも移動していた。  風で動いたのだろうか。しかし、あの一瞬でそこまで動こうものか。  距離が近づいた分、その輪郭と呼べるものがさっきよりも捉えられるようになった。どうもシーツやらの類ではないと遠目に判断できる。 「……人?」  まさかとは思いつつ、朱美はそんな懸念を覚えた。  その輪郭が人間のように感じられたのだが、しかし、それはさっきから微動だにしていない。まるで木々の合間に座しているかのように。    朱美は山の全体を隈なく見渡した。  営林所の作業員が何かをしてるのかと思った。しかし、たった一人でこんな時間にライトも用いずにとはどうにもおかしい。  実際、それ以外に目立つ物はなかった。
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