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裕之は公園のベンチに腰掛けた。
頼りない街灯の灯りは、裕之自身の投影のようでもあった。
煙草を咥え、過去の自分と現在の自分の比較検証作業を再開した。大学のテニスサークルで仲良くなったのが今の妻だった。あいつも昔は可愛かったな。昔はな。
こんなネガティブな堂々巡りの思考に囚われるのは危険だとわかってはいるが、ポジティブな思考法はとうの昔に忘れてしまっていた。
煙草の火を消し携帯灰皿に入れ、鉛の入ったような疲れた体を立ち上げようとしたときだった。
閃光と爆発音、そして風圧が裕之を直撃した。
「グゴオォォォォ!」
得体のしれない獣のような咆哮が耳朶を打った。振り返るとそこには――
悪魔がいた。
濡れた闇のような黒々とした硬質の皮膚。膨大な筋肉をまとった体躯はおそらく裕之の二倍はあった。裂けるように赤く拡がった口腔には鋭い牙が並び、双眸は鬼火のように禍々しい光を放っている。
事態を把握しないまま本能的に恐怖を感じ逃げようとするが脚がもつれ転倒する。地面を這う裕之。悪魔は無様に這う裕之を無視して、そのまま通り過ぎていく。悪魔の長い脚の動きはどこか昆虫を連想させるものだった。
「逃がさないわよ!」
その女性の声は、地声というよりアニメ声優がよく使うフェイクの発声法だ。緊迫した状況にこれほどミスマッチなものはないだろう。とはいえ、日常世界に突然悪魔が出てきたこと自体がミスマッチであるのだが。
声の主は、緑色の華やかな衣装をまとったローティーンの女の子だった。
女の子は異常な跳躍力を発揮して宙に舞い、手にした奇妙な杖のようなものを悪魔に差し向けた。
「ペパーミントフラッシュ!」
杖の先から緑色の光線が放射され悪魔を直撃する。
悪魔は耳を聾する咆哮をあげ苦しんだはてにそのまま動かなくなった。
「この世に悪がある限り、マジカルキャンディがおしおきよ!」
女の子はフリルのついたミニスカートをひらりとさせ、杖のようなものをくるりとまわしウインクした。
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