7/20
前へ
/20ページ
次へ
「穂積さんも乗りなさい」 「……」 あたしは今日をクビになる。 彼の冷たい視線に、それだけははっきりとわかった。 藤堂課長はあたしを助手席に座らせて、奥さんを後ろに、課長はその隣に座った。 「さて、順を追って話したいただけますか?」 「順番なんて知らないわよ。その女がっ」 「穂積さん、本当に彼女のご主人と付き合っていたのですか?」 イエスかノーか。 それしか答えられないのなら、イエスだ。あたしがコクリと頷くと、奥さんは「ほら見てご覧!」と大笑い。 「でもっ、結婚してるなんて知りませんでした!」 どうせクビになる。 それならと、あたしは声を振り絞った。 「先に誘ったのも向こうだし、ノブ君は家庭があるなんて一言も言わなかった! そんなの知ってたら──」 好きになんて、ならなかった。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

456人が本棚に入れています
本棚に追加