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会社を出て空を見上げる。まだ夕焼けなんて、こんなのいつぶり? せっかく定時で帰れるんだし、どこか寄って帰ろうか? そういえばまだ今年は夏物買ってないな。
とは思って少しだけお店を回ってみたけど、なんとなく買う気になれない。
「帰ろ」
こんな時、無理やり買ったって後で絶対後悔するもの。
だから大人しくバスに乗って家に向かった。
就職してからあたしは一人暮らしだ。普通の一人暮らし用のマンションは会社からバスで15分程度だし、しないで飲んで帰りがタクシーでも二千円くらいで帰れるから気に入ってる。
ちゃんとオートロックだし防犯もばっちり――。
「あなたね!」
いきなりそう言われ、肩を掴まれてあたしの息が一瞬詰まった。
あたしの方を掴んだまま睨んでる女性の顔に見覚えはない。ないんだけど―― 。
「よくもうちの主人をたぶらかしたわね! この淫売!」
「―― っ、は、離してくださいっ!」
この人、ノブ君の奥さんだ。どうしてあたしのことが分かったのか、なんで家まで来られたのか、そんなことは分からないけど、逃げなきゃ。
オートロックの向こう側までいけば――。
そう考えたとき、あたしのスマホが着信音を響かせた。
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