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「穂積さん」
「は、はいっ」
「帰宅方法は?」
「え? あ、えと、目の前のバス停からバス乗って、あとは徒歩5分、ですけど」
「あまり人通りの多い場所ではなかったですよね?」
「はぁ……」
そっか、この間来てくれたからこんなことも分かるのか。
「もう帰りなさい。タクシー代は私が出しますから」
「え? そ、そんなっ! 大丈夫です!」
焦るあたしに「いいのいいの」と、後ろから緒方課長の手が伸びてきて、ファイルを保存するとあたしのパソコンの電源を落としてしまった。
「あ、当然晩飯もまだだよな? 藤堂、万札くれ。それで俺とどっか飲みにーー」
「緒方課長、それはセクハラでもあり職権乱用です。穂積さん、これで帰りなさい」
そう言って藤堂課長があたしの机の上においたのは、福沢諭吉さん。
「やっ、本当にこんなお金要らないですからっ」
「お疲れ様でした。明日もお願いします」
返そうとしたのに、藤堂課長は受け取らず自分の席に戻ってしまった。
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