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よろけて足がもつれる私を支えてるのは、肘までまくったシャツから覗く健康そうな色の腕。
うっすら筋が浮かんでまさに細マッチョと言える、マニアにはたまらないそれがなぜ、人の腰に巻きついているのか。
「お、この角度最高」
不意に漂ってきた香水と思わしき人工的なものよりも、さらに甘い、かすれたような囁き声が耳をくすぐる。
あまりに近くで聞こえた言葉に反射的に身を捩ると、今いなくなったと思った当人が背後から私を羽交い絞めにしていた。
驚きのあまり固まりながらも、脳は取材時の癖で、見た目を分析し始める。
ボタンを二つ開け、着崩したシャツ。
黒髪はきっちりとセットされ、真面目な印象を与えるのに、耳元にはいくつものピアス。
一見怖そうな鋭い目つきをしているわりには、楽しそうに笑みを描く唇。
今までの三人を足して割ったような雰囲気の彼は、ぽかんと口を開ける私に瞳を無くして深く微笑んだ。
「小雪ちゃんだっけ?すごい色っぽい首してる。髪まとめた方が良いよ」
はあ?と返す暇も与えず、空いた方の手を掲げたかと思うと、それを私の首筋に当てる。
そしてゆっくりと、撫でるよう髪をすくい、横に流した。
「ほら」
いや、ほらじゃないし。何この人。
「ふぉー!」
「ふぉーじゃないですよ編集長!あのっ、なんなんですかいきなり!」
後ろで興奮した様子の編集長を睨みながら、思いきり身体を動かして彼の手から逃れる。
しかし彼は敵意を示す私をどうとも感じないのか、へらへら笑って
「今次明日斗(きんじあすと)、25歳でーす。俺にとって初めての後輩でテンションあがっちゃった」
とのたまった。
テンションが上がったら人の腰や首を触るのか?
最後の人物によって、やはりここは危険地帯だったという警戒信号が点けられる中、終始を見ていた東雲さんがパンっと手を叩いた。
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